MFG的SS「虚空の蒼玉」
第56話<ぱうだぁ>

風を切るような音が、アルカースの背後をよぎる。
「う、うわっ!??」
「何でしょうか?」
気配が消えたと思った刹那、少し遠くにある木が倒れる。
切ったのではなく、破壊したような音を立てて。
ちょうどそこは、先程ジェイルが去っていった方向である。
「・・・ジェイルさん、大丈夫かな・・」
「探しに行くか?」
ムクラが槍をつかんで言った。
「・・自分から席をはずれたんや、きっと言えない理由でもあるんやろ。
 そのうち帰ってくるさ」
次の肉をほおばりながらベルギスは言う。
しかし、アルカースからはあの黄金色の瞳が離れない。
別の世界を見据えた、異色の瞳
「・・・やっぱり、僕ひとりで見てきます」
「周りに何かいる。ひとりで平気か?」
「まずかったら、すぐ戻ります」
そう言うと、アルカースは彼の後を追った。
 
 

「・・・・ハァ・・何故、何故だッ・・!」
なぜこうも苛立つのか。
なぜこうも、何かを壊したくなるのか。
茂みの深みに身をひそめ、ジェイルはただ考えていた。
答えの見えない考えは、さらに破壊を求める。
なにかにぶち当たりたい気持ちばかりが大きくなる。
「・・ゥゥゥゥゥウウウアアアアアア!!!」
近くの木を、切り裂くように素手で殴りかかる。
ばきり、と重い音を立てて木は倒れ、かつ彼の右手は無傷。
咆哮のような低い声がこぼれるのは、気のせいではない。

ふと、ジェイルは何かの気配を感じ取った。
日頃よりも鋭敏になった感覚で、見えない相手の像を掴む。
「・・・まさか・・・!」

「確かこの辺に・・・」
気配の主はアルカースだ。
近づくに連れて、肌に感じる異様な闘気と野生の殺気が強くなる。
「(ヤバそうだよな、これ・・)」
1歩、また1歩と慎重に足を運ぶ。
「・・ジェイルさーん?いるんで・・・」

・・コローネェェ・・!!来るなぁッ!!
 

「え!?」
突然響いた声に、アルカースは足を止めた。
確かに声はジェイルのそれだ。だが、様子が全然おかしい。
常に冷静で、そして感情的な彼とは違う必死の叫び。
「・・・グ・・ッ・・・ウウウ・・!」
「ジェイルさん!?」
アルカースがもう1歩を踏み出した。
そして、“彼”を見つけた。
「あっ・・・・

闇夜に浮かぶ黄金色の瞳、縦に割れた獣の瞳孔
手は何かにつかみ掛かるように力がこもり、鋭い爪が月光の弧を描く。
獣と人との半身。
世間はそれを『ライカンスロープ』と呼ぶ。
今のジェイルの姿は、闘争心のみなぎる獰猛なヤマネコのようだ。
 

「・・・近づくな・・取り返しの、つか、な・・」
言葉は最後まで続かなかった。
気が付くと、ジェイルの気配はどこにもない。
「・・・な、何なんだ・・!?;」
次に気配を感じたとき、アルカースは反射的に身をかがめ、空を切った攻撃を避けた。
「うわぁっ!!」
服の一部が引きちぎれる。
避けた拍子に見た、見るも無残な2本の木を見て、アルカースは“畏れ”を感じずにはいられなかった。
「・・月・・月が南天より西に沈みだせば・・・トマル・・。
 モドレ・・・!コレ以上近ヅクナ!!」
構造までも変化しているのだろうか。
ジェイルの言葉は、次第につたなく、聞きづらくなっていく。
「(た・・・大変だ・・)」
アルカースは、足早にその場を離れた。
走って戻る彼の脳裏に、アルテアの言葉が蘇る。

『異種とのハーフになると、普段は人間でも、
 時間によって力が変化したり、半分の力が暴走したりすることが、あるみたいですので一一一
 
 
 

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