MFG的SS「虚空の蒼玉」
第37話<ぱうだぁ>

賑やかに開かれた市の通りを、シェインは一人歩いていた。
現実離れしているこの世界での、この雰囲気がどこか懐かしい。
新しい矢を買い足した後、とくに目的もなくぶらぶら歩いていたとき、ひときわ賑やかな声と人だかりに出くわした。

「さぁさぁ挑戦者はいないかぁ〜?弓矢3投で一獲千金、今の勝者よりド真ん中を抜けばたちまち賞金ゲット〜〜!!」

人波をかき分けて見ると、的の中心に1本、矢が突き刺さっている。
司会者の机の上には大量の掛け金、そしてその横には現在の勝者とおぼしき、黒い眼帯をした屈強な男が笑っていた。
「YO〜!そこの兄ちゃん、いっちょやってかねーかぃ!?」
シェインを見つけた司会者が妙なテンションでシェインを指さす。
「え・・・・」
弓は宿屋に置きっぱなしだった。
周りの雰囲気もまして、なんとか逃げられないかと考えたが
「弓矢ならこちらで用意してありマース!
 それとも、育ちの良さそうなおぼっちゃまは挑戦前にお手上げか〜?」
観客が声をあげて笑った。
 
 

バンッ!!
「・・やってやろうじゃない。甘く見られちゃ困るんだけど」
机の上に掛け金250リンクス(2500円)を叩きつけ、シェインはかけを申し込んだ。
「ほー!!さすが高額の掛け金ダネ!!女っぽい口調もさることながら、相当自信アリのようデスネー!」
観客はまた笑った。
「(・・いちいちうっとーしぃんだよ、コイツ・・)」
心の中で毒づきながら、弓と矢3本を受け取って的の前に立った。
改めて的の前に立つと、ささった弓が本当にど真ん中にあるのが判る。
本当にこの男が射たものなのかが若干疑わしい。
「レディーーーー・・ゴー!!」
一本目は中央から離れた、外から2番目の円に刺さった。
そこでまた観客の野次が飛ぶ。
「(落ち着いて・・・それにしても撃ちにくい弓・・;)」
2本目。
きゅっと矢を引き絞り、緊張感が静かに観衆を黙らせる。
 

ストン。

「な・・・・・」
放たれた矢は、刺さっていた矢の後に真っ直ぐに突き刺さった。
数秒ほど時間が止まった後、大歓声が辺り一帯から巻き起こった。
「コォ〜ングラチュレイショ〜〜ン!!おめでとうございます!!」
賞金を、とふり返った司会者。
だがその後には、斧を振りかざす大男。
「金はオレの物だ!!」
男は海賊のようだった。
斧を振り回し、観客は散り散りに逃げていく。
シェインもとっさに斧をかわした。が、逃げていく観客の脚にひっかかり、大男の目の前で転倒した。
ポケットからクロウの練金石が転がり落ちる。
「おまえがいなけりゃ金はオレの物だ!!死ねぃ!」
振り上げられた斧が太陽の光を遮る。
刹那、重力に任された得物が地面に突き刺さると同時に、シェインは転がるようにそれを避けた。
練金石は・・あろうことか大男の足元だ。
「すばしっこい小僧だな・・コロコロと逃げやがって」
「(クロウさんの石・・・)」
いつのまにか持っていた練金石。
移動組が帰ってきたら返してあげよう、そう思っていた石をなくすわけにはいかなかった。
そして、意を決して大男の足元に飛び込む。
「そこかぁぁあ!」
すぐさま斧が飛んでくる。
腕が飛ぶか石を取るか。
そんなギリギリのタイミングだった。

石をつかんだ瞬間、刻まれていた「SILVER」の文字が光り、途端にその姿を変えた。
それが防御壁となり、斧は弾かれシェインは間を取って体制を立て直した。
「石の・・・・弓!?」
羽のように軽く、大斧をはじき飛ばす弓。
おまけに・・・弾かれた斧は欠けていた。
「う・・う・・・・うわぁああああ!!」
さきほどの威勢はどこへやら、腰抜けの大男がわめいていた。
どうやら欠けた刃が奴の足を抉ったらしい。なんとも罰当たりである。
「許じでぐれ!おれを許せ!!うわああああ!!」
「・・・私は別にいいんだけどさ・・・」
「?」
ため息交じりにシェインが呟いた後、大男はすぐ後に控えていた警官隊に連行されていった。
 
 

夕方、宿屋に大量の麻袋を抱えてシェインは戻ってきた。
「ど、どうしたんですか?これ・・・」
アルテアがびっくりして聞いた。
「いろいろあってね・・・数えるの手伝ってくれる?」

ほとんど挑発に乗った勢いで勝ち取った掛け金の山。
さらに、海賊を捕まえたとして政府からの謝礼金も加わり・・・
・・持ち帰った金額、なんと約51万リンクス。

「みんな驚くかなぁ?」
シェインは笑いながら、みんなの帰りを待っていた。
 
 
 

 

→Next