「それにしても、椿さんのものも便利な能力ですねぇ・・・」
「あんまり戦闘用とは言えないですけどね〜」

夜も明けて、二人は東京があると思われる方向に向かって南下している。
流石にこの状況の中でも、都市部には人がいるだろうという予感を抱いていたから、
星型の乗り物・・・ワープスターに乗って進んでいるのだ。

彼女、ツバキ=ミヤマの能力は自分の描いた絵からモノを出現させることができるものである。
召喚術の応用のようなものなのだが、このように召喚獣以外のものも出せるのがいいところだ。
もちろん限りはあるが、色々応用が利きそうな能力ではある。
そんなわけで、今もせっせと絵を描いているのだ。
 

少し進んでいくと、東京タワーが見えてくる。
他の建物が崩れている状態では、奇跡に近いが・・・人気が少ないことに変わりは無い。
更に“拡大”させて見回してみると

「おや、東の方でしょうか・・・あの様子では戦いが起こっているようですねぇ」
「行ってみるんですか?」
「情報を集めるにはもってこいですが・・・・貴女はどうしますか?無理について来なくても構いませんよ」
「私も行きます、何か役に立てればいいんですけど・・・頑張りますっ」
 
 
 

アルタイルが見た方向・・・
鹿島神宮周辺は、異次元からの侵略者集団“極星帝国”の総攻撃を受けているところであった。
この世界では、今この極星帝国による侵略が行われている最中だったのである。
これに対抗するのは、
超能力者集団“E.G.O”
西洋魔術結社“WIZ−DOM”
東洋呪術者集団“阿羅耶識”
古代魔族集団“ダークロア”
このうち、ここ鹿島神宮は阿羅耶識の関東支部のようなものなのである。

しかし、戦況は余り思わしいものではない。
ドラゴンの集団が空から攻撃を加え、アンデッドや騎兵達の集団が地上から攻撃する。
圧倒的な数によって、能力者たちは苦しめられているのだった。
 

その陣頭指揮を任されていたのが、極星帝国七国王のひとり、アーサー=ベンドラゴンである。
そして、今陣に入ってきたのが、定時報告に来たキャメロット騎士団長、ランスロットだ。

「それにしても・・・なかなか調子はいいようだな」
「地球の能力者ども等、我ら極星帝国の前にはザコ同然と言うところでしょう」
「ランスロット、油断はいかんぞ・・・驕れるものは久しからず、だ。抜かるなよ」
「はっ、アーサー様。」

報告を終えると、ランスロットは再び馬に跨り、戦地へと赴く。
とはいえ、余り何もやっていないのだが・・・
 
 

一方、ランスロットが出て行った方向とは逆の方から、その陣を狙って攻め入っているものがいた。
WIZ−DOMのホムンクルス、works274とその部隊だ。
しかし、状況は劣勢。既に274以外のホムンクルスたちは倒れ、もはや無理に突撃しても勝ち目がないのは明らかだった。
274の使っている白銀の槍・・・
ロンギヌスの槍によって相手の魂を消し飛ばすことで何とかここまで来れたが、これ以上は使うほうも厳しいだろう。

「もう少しだと言うのに・・・えぃっ」

迫ってくる騎兵の一人の胸に槍を向け、刺し貫く。
しかし、もう精神力が残っていないのか
・・・・抜いた後、違う兵に槍を向けようとしたその時、敵の剣戟によって槍は砕かれてしまう。
もう駄目か、と思った次の瞬間、目の前の騎兵がトライデントによって刺し貫かれる。
同じホムンクルスである、カインだった。
その背には、悪魔の羽が生えている。

「おいおい大丈夫かよ?あんま無理すんじゃねーぞ」
「大丈夫・・・それよりちゃんと自分の心配もしなさいよ」
「その点は問題ねーな、これで最後だったし」

そんなことを言いながら周りを指差してみる。
カインのトライデントによって、そこ一帯の兵達は既に全滅していたのだった。
得意げな表情をしているカインだったが・・・
しかし、指揮を取っていると思われる陣の中から一人の人物が現れると、その表情は一変した。

「敵の大将がお出ましか・・・」
「君達がやってくれたのかな?この辺りは・・・それなら少しは楽しめそうだね」
「おい、逃げるぞ。どう考えたって今の状態じゃ勝てねぇ」
「ここまで来て・・・」
「何言ってやがんだ、お前が一番危ない癖によ。死んだら元も子もねぇだろうが・・・行くぞ!」

そういいながら274を抱きかかえて飛行していこうとするが、
アーサーが黙っているはずもなく、二人が飛び立つ前に一撃を加えようとする・・・・その時
上空から現れた一人の男の剣が、その剣を受け止める。

「女性を庇おうとするその気持ち・・・なかなかのものですね。ここは私が代わりましょう」
「誰だかしらねぇけど助かった、ありがとな」

受け止めている間に、二人は飛び去った。
それを確認してから、互いは間合いを取るために一旦離れる。
そして、構えたまま互いに相手の出方をうかがう体制に入った。

「なかなかの腕前のようですね。相手にとって不足はない・・・」
「こちらも同じですよ・・・それでは、少々私の踊りにつきあってもらうとしますか」

そういうと同時に、アルタイルは相手への間合いを一気に詰め、
回転しながら相手の下段に切り込んだかと思うと、離れ際に上段を目掛けて剣戟を放つ。
更に少し離れた間合いのところから、左右に揺さぶるように切り付けていく・・・それでも、アーサーはすべての攻撃を受け止めている。
今度はアーサーの方から少し間合いをあけ、勢いをつけて上から剣を振り下ろす。
剣と剣がぶつかる音は凄まじく、どちらも負けてはいなかった。

「くっ・・・やるな、貴殿も騎士と言うものがわかっている、我が軍にもこういう人材が欲しいものだ。」
「彼方こそ・・・流石になかなかいい腕前ですよ。」
「だが、勝つのはただ一人・・・・行くぞ!」

凄まじい剣戟の打ち合い、
響く音と衝撃波は、互いの実力が拮抗していることを意味している。
そんな中でも打ち合い続ける二人・・・互いに体力が尽きるまで打ち合おうかと言う状態であった。
 
 
 

そのころ、ツバキは
「加勢して来ますから、安全な場所にいてくださいね」
とだけ言い残し、急に飛び降りたアルタイルの場所を上空から探していた。
一応剣に召喚獣をつけておいたので、肉眼で探さなくても場所は掴めるのだが・・・
探そうにも、上空にもドラゴンがいるため、必ずしも安全ではないのである。

二体のドラゴンが襲い掛かってくる中を必死に避け、スケッチブックの1ページを開いて念を込める。

「えーっと、とりあえずドラゴンにはドラゴンで」

そう言って召喚したのは、シルドラゴンである。
出現と同時に、氷のブレスによってドラゴンたちを蹴散らしてゆく。
パワーでも、大きさで負けていないためにそう簡単にはやられないだろう。
極星帝国のドラゴンたちは、ほとんどがシルドラゴンを落とすために向かっていく。
そのため、一応これで上空は安全になったと考えられる。

シルドラゴンが頑張って引き止めてくれることを祈りつつ、ツバキは再び捜索の体制に入った。
戦争のような状態でもの悲しくなる空を見渡していくと、ふいに捜していた男の反応があった。
 
 
 

「・・・もう何分打ち合っただろうな」
「さぁねぇ・・・」
結局いまだに勝負がついていない二人は、互いに消耗しながらも何処か楽しそうな様子でもあった。
周りでは残酷な景色が繰り広げられているだろうに、ここだけは厳かで、神秘的な雰囲気さえ漂わせている。
アルタイルの剣が舞う、アーサーはそれを受け流すと同時に攻撃態勢に入り、
それを阻止するように再びアルタイルの剣が振るわれる。
もう、何分こうしているだろう。
まだ二人の戦いは終わらない・・・その状況だけでは、確かにそうだっただろう。

だが、運命はそう優しく流れ行くものではなかった。
 

突如、丁度硬直状態にあった二人の横に、
上空から凄いスピードで、直径約60センチ大の不思議な球体が落ちてくる。
そして、それに触れた地面が抉り取られたように、綺麗に消えてなくなる。

「次元弾・・・皇帝陛下は、既に本隊での進行は諦められたということか。」
「これは当たると危なそうですねぇ・・・」

次元弾・・・・
極星帝国は、次元を超えて進行してきた軍団である。
故に、次元の断層やねじれを利用した攻撃方法もある。
その一つが、この次元弾。
当たったものを別の次元に飛ばし、この次元には存在しなかったものとしてしまう。
高濃度のエネルギーが必要となるために乱射は出来ないが、
それでも兵器としてはかなりの威力を誇るものの一つであった。

「もう長く戦ってはいられない・・・かな。
 それではそろそろこの力まで使う必要があるようですかねぇ・・・」
アルタイルは、蒼玉を取り出す。
ここ数日間ずっと調べてきたことなのだが、この玉にはかなり強いエネルギーが込められている。
恐らく、この世界に飛ばしたり、姿と力を与えたのもこれの作用によるものだ。
言わば「心」の力を具現化するもの・・・使い方によっては、今まで以上の力を発揮できる。
それが、この世界に来てから、これについて色々試してみた結果だった。

「今こそ私に、その大いなる力を与え・・」
早速エネルギーの解放を行おうと思ったアルタイルだったが、それは不発に終わった。
何故なら・・・上空から人、しかもツバキが落ちてきたからである。
どうやら、移動用に使っていたものを次元弾によって消されてしまったらしかった。

とりあえず、アーサーの攻撃を防ぐために氷の障壁を前に発生させ、
その間に、落下してくるのをどうにか受け止める。
「あ、ありがとうございます;」
「礼を言われるようなことでもありません・・・
 それより椿さん、ここは危ないですから少し下がっていて下さい。」
そういうか言い終わらないかのうちに、突如周囲に騎馬隊が現れる。
その数・・・およそ50。
流石に抱きかかえたままはまずいので、すぐに降ろして、自分の後ろに下がらせる。

そして、増援にやってきた騎士の一人が声を上げる。
「アーサー様、お戻りください、ここは危険です!」
「ランスロット・・・この者との勝負がまだついていない、お前達だけ先に戻れ。」
「し、しかしそういうわけには」
「これは命令だ、他のものを連れて早く・・・」
アーサーが言いかけたとき、付近に次元弾が3つ降り注いだ。
一つは、キャメロット軍の兵士を。
もう一つは、アーサーの左斜め前、氷の障壁を削りながら。
そして最後の一つは・・・アルタイルの後ろ。
つまり椿に、直撃した。
一瞬にして、椿の姿が消え去る。
アルタイルがそれを確認した時、
元いただろうと思われる場所に、蒼玉と荷物だけが転がり落ちていた。

ほんの数秒の出来事で、アルタイルの頭の中では本当に何が起きたのかは理解できなかった。
ただ感じられたのは、自分の不注意で、椿がいなくなってしまったこと。
それが永遠の別れか、ひと時の別れかはわからない。
しかし、自分の力不足を感じずにはいられない。

「椿さん・・・私の力が足りないばかりに・・・
 これでも、まだ私には力が足りないって言うのか・・・?」
足元に転がる蒼玉を拾い上げようとするアルタイルの耳に、馬の足音が聞こえてくる。
走っているようだが・・・そう近くは無い。

「ええい、このランスロットが、アーサー様に仇なすものは叩き潰してくれる!」
「待て、ランスロット、お前の敵う相手では・・・」
そういうのも聞かず、剣を抜いてアルタイルの元まで駆けてくるランスロット。
蒼玉を拾い上げていた動作中では受けるのすら間に合わないかと言うところだったが、
ランスロットが剣を振り下ろし、それが当たろうかと言うところで・・・何か強大な力によって、ランスロットは弾き飛ばされた。
それは、アルタイルから放たれている・・・湧き上がる魔力と、それによる衝撃波。

悲しみに満ちたその顔を上げると、剣を握りなおす。
「今、私は機嫌が悪いんですよ・・・死にたくないならばおとなしく帰ることです。」
「だ、誰がそんなことをっ!」

激昂して転倒した位置から立ち上がり、再び切りつけようとするランスロットだが、
アルタイルは顔色一つ変えず、それが目の前に来るのを待ち・・・
1メートルの範囲内にランスロットが入った瞬間、彼の持っていた剣が叩き折られた。
衝撃でランスロットは再び転倒する。
しかし、アルタイルは微塵の動きも見せていない・・・否、見える攻撃を繰り出してはいない。
そして折られた剣の刃が、放物線を描きランスロットの後ろの方に突き刺さった。
砕かれた金属片が、悲しい光を放っている。

「残念だな・・・さようなら」
いつの間にかランスロットの目の前まで来ていたアルタイルの剣が振るわれる。
血飛沫が舞う光景を大部分の兵が予感した中、間一髪その一撃は大剣によって防がれた。
それは、アーサーの大剣。

「これでも大事な部下なんだ・・・そう簡単にはやらせないさ」
「そうですか・・・仕方がありませんね。
 ここは引き分けと言うことで、お引取り願おう。」
「確かに、これ以上やっていても被害が拡大するだけ・・・だな。残念だ。」
「生きていれば、また戦う日も来るでしょう。お互い、死なないことです。」
その言葉と同時に、アーサーに銀の指輪が投げられる。
アルタイルのしていた、天狼星を模した指輪だ。

「必ずまた戦うと言う証です、次あった時に返してもらいますよ。」
「・・・望むところ。 キャメロット軍、総員撤退!」
 

転移されていくアーサーたちを見送りながら、
アルタイルは一つ増えてしまった蒼玉と、今は離れてしまった仲間の荷物を見つめ、誰にも見られないよう、小さく涙した。
しかし・・・
雫が青玉に零れ落ちたその時、、蒼玉が不思議な光を放った。
すべてを包み込むような、暖かい光を。
 
 

 

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