「これは・・・まさかまだ・・・」

蒼玉の不思議な光。
それは何かの力を帯びているようで、神秘的な輝き方。
暖かい波動・・・心の息吹を感じさせた。

二人で元の世界に戻る、
そんな他愛もない約束を守ろうと蒼玉が椿の魂の媒介となって、この次元に留めたのだ。

だが、魂だけの状態と言うのは非常に安定性が無い。
何か守るものが必要・・・なら、とアルタイルはそれを両手で握り締める。

「元の体に戻してあげるその時までは・・・私が命をかけて守りましょう」

自分の身体に霊的結界を張り巡らせ、その中に魂を保存する。
身体には干渉力が加わるから多少力を失うことになりかねないが、そんなことは構わない。

一通り術を施し終わると、椿の荷物を剣や弓をしまっている自分の魔術空間に送り、
またあてもなく歩き始める・・・否、今度はしっかりとした目的はある。
先ほどの極星帝国とか言う集団は、同時間帯内の時空転移術を自在に操っているようだった。
時空転移術と言うのはかなりの魔力を消費するわけだから、それを制御するためにものがあるに違いない。
ならば、それを利用して椿の身体を探せる。

極星帝国打倒・・・そしてすべてを取り戻す。
そのためには、先ほどまで奴らと戦っていた集団を頼ろうとしているのだが、何せ場所などわからない。

「・・・結局何もあてがないのと同じか」

ため息をついてもばかりいられないので、血に塗れた戦場をあとに、行き先もわからない旅に出た。
 
 
 

それから、どれだけ経っただろう。
あの時のことは3日前であったとも、一ヶ月も前のことだったとも思えてくる。
時間感覚が曖昧になってきているのが、自分でも理解できた。

あれからの間、様々な“能力者”に出遭った。
極星帝国と戦っているというその能力者たちの戦いに適当に参加しながら、
数人とは連絡を取れるような状態にもなっていたのはわかる。
でも・・・やはり満たされないものがある。
それだけは、強く感じ取っていた。
 
 

いつものように、小規模な極星帝国軍との戦いをしている間・・・何処かで見た男がそこにいた。
あの時、私が剣を叩き折った騎士・・・最後の一人になってようやく私を確認したのか、こちらに猛突進してくる。
それを軽く避ける・・・先ほどまで魔法で戦っていたから軽く避けただけなのだが。

「ここであったが百年目よ・・・この前のようには行かぬ、今度こそその首を陛下に・・・」
「“土壌の弾丸”」
ランスロットの言葉をさえぎるように、アルタイルの足元から無数の父の弾丸が発射される。
無論、そんなこと予想していなかったランスロットは直撃、落馬。

「きっ、貴様人の話を・・・」
「うるさいですねぇ・・・能書きはいいからさっさと来たらどうですか?」

そういわれるやいなや、切りかかるランスロット。
剣も出さずに、アルタイルは相手の周りを避け続けるのみ。
だが・・・・ただ避け続けているわけではなく、ランスロットには聞こえなかったが、密かに詠唱をしていた。
そんなこと全く気づく様子もなく、アルタイルを捉えるべく剣を振るうランスロット。
ぎりぎりのところをかすめてはいるのだが、当たる様子はない。
と言うのも、アルタイルがわざわざぎりぎりなラインで避けて、相手を挑発しているからだったのだが。

「ええい、避けているだけでは何も始まらんぞ!」
「私が避けているだけとでも?」
「そうでなかったら一体何・・・」

突如、ランスロットの動きが止まる・・・もとい、止めさせられる。
見ると、自分がいるところを中心に、半径2メートルほどの六亡星が描かれているのだ。
それぞれの支点では、各々別の輝きをした細い柱のようなものが立っている。
すなわち、火・水・風・土・光・闇。それぞれの元素の魔力だ。

「私が避けている間に、6つの場所に凝縮魔力を埋め込んでおきましてね。
 それでこういう風に結界を描いたんですよ・・・あなたが気づかなくて助かりました」
「おのれ・・・小ざかしい真似を・・・女一人守れないようなものの分際で・・・」
「逆だ、私はその人を元に戻す、そしてそれからはずっと守れるくらいの力を得る。
 そのために強くなるんですよ・・・
 さて、殺してしまっても構わないんですが、折角捕らえたんですからこのまま封印しましょうか。」

そういうと、各支点が輝きを増し、それぞれの場所から中心に向かって魔力が放たれる。
刺し貫かれるように6つの魔力が捉えたもののあとには、一つの石像が置かれていた。
“石化”。今日は、土の力が強かったようだ・・・
 
 

「そう・・・私はきっと強くなるから、見ていて下さい。」
そういい残して、手向けに薔薇を出現させて、石像の方に投げる。
気分的に自分も欲しいな、と思ったので、もう一輪出現させてみたりする。

そんなことをしながら、
左手に薔薇を一輪だけ持ってその場をあとにしようとしたアルタイルの前に、一枚のカードが現れた。
それはタロットカードの【星】・・・しかも、たった1枚だけ。
しかし、よく見ると湖に水瓶の水を注いでいる女性の代わりに、剣を携えた自分が立っている絵だった。
「希望・友情・遠くにいて思うもの・・・か。蒼玉も味な真似をしてくれるものです」
言いながらそのカードを手に取った瞬間、近くで時空転移が起こった。
 
 
 
 
 
 
 

先ほどとは違う場所・・・地に足をつけている感じがしない。
「ここは・・・時空転移に巻き込まれたか」
異質な空間。
この世ならぬ、この世。
何処かもわからないところに、自分はいた。
・・・もとい、自分と、他二人がいた。
銃を持つ髪の短い男性と、
大きな本を持った、長髪の女性。
しかし、自分を含めて青白い髪と、
ルビーとトパーズのオッドアイを持っていることに変わりはなかった。

「やっと会えたね、アルタイル・・・いや、蒼玉の力で僕らを生み出した、鷲座の僕」
「このような機会に会えるとは、思いも寄りませんでしたけれど・・・」
「もう一人の、私?
 蒼玉の力とは・・・そして君達は何者なんだ?」

今は手元に二つ残されている、蒼玉。
そのうちの片方が、美しく輝いている。

蒼玉は力を与えるものだ、ということはうすうす感じていたのだが・・・
この二人は、その答えを持っているらしい。

「蒼玉の力、伝承では色々言われてるけど、実際はたいしたものでもない、誰でも持ってるものなんだよ。」
「その力と言うのは、思いを形に変える、心の力。それはとても不安定で、また大きすぎる力なのです。
 特に、私達が持っている力は、蒼玉を持つ人たちの中では間違いなく最も強い力。
 そのために、お兄様は魔力の矯正がないと身体が弱い状態なのです。」
「それで、今兄さんが持っているタロットカード・・・
 それっていうのは、その力を引き出しやすくする媒介みたいなものなんだ。
 まぁ、人によって何のカードなのかは違うらしいけど、それぞれその人の心が表れてるものなんだと思うよ。」
「なるほど・・・ね。だから私には【星】ですか。」

妙に納得できる。
全ての大アルカナのなかで私を例えるなら、これが最も適しているんだろう。
いろいろな意味で・・・

「それと、僕達のことだけど・・・
 君の手甲を見てみればわかると思うけど、それには3つの星座が描かれているんだ。
 それは、3つの力を現してもいるんだよ。」
「そして、それぞれにあなたから分かれた違う人格が宿っているのです。」

私から分かれた、違う私・・・
心の波を持つ私にとって、それは心当たりのあるものだったかもしれない。

「なるほど・・・私も、また大変な心の状態だったわけですね。」
「まぁ、そのおかげで僕達がいるんだけどね。」
「別に、おかしいことではありません。
 人には、様々な面があるのですから。いいところも、悪いところも・・・」
「そういうことだよ。それに、この世界じゃそれが逆に好都合なんだから。
 僕たち3人、互いに支えあって元の世界に戻っていけるんだよ。」
「それは心強いね・・・」

自分とはいえ、この世界では十分に力を得ている。
それが3人・・・すべて違う力が使えるなら、いろいろな場合に対応できるではないか。
そう喜んでいるアルタイルに、
アルテアはそうも行かない、といったように首を横に振った。

「でも、いきなりですが私はお別れです。
 この空間に飛ばされたのは、近くで強烈な次元断層が生じたからなのですけれど・・・」
「それに、丁度引き込まれそうなんだよね。
 で、仕方がないから、僕達の記憶と力の半分・・・アルテアの魂が犠牲になって、僕達はこの世界に残ろうと思うんだ。」
「なら、全員で転移してしまえば早いんじゃないんですか?」
「いいえ、そうもいきません。まだこの世界でやることがありますから。
 ですから、お二人にはそれを成し遂げてから、私と合流して欲しいのです。」
「アルテアの占いだと、アルテアが飛ばされるところにいるのは僕達のよく知ってる人らしいし、
 入れ違いに入ってくる人たちも、知ってる人みたいだから。少しは安心していいとおもうし。」

けろっと言うが、そう簡単なことではないに決まっている。
アルテアは、飛ばされた先では具現化できるということだが、
その先で様々な困難が待ち受けていることは、想像に難くない。
それでも・・・

「わかりました。私はこの世界でやるべきことを果たします。
 椿さんと、そして私たち自身のためにも。ですから、安心して行ってください。」
「ありがとうございます・・・椿さんの身体の方は、私のほうで探しておきます。
 ですから、くれぐれもお気をつけて・・・」

少しづつ、アルテアの輪郭が薄れていく。
霞がかったように、少しづつ・・・しかし、確実に。

「そうだ・・・まだお互いに名乗っていないだろう。
 私は、アルタイル=フリューゲル。どうやら、持っているのは鷲座の力みたいですねぇ。」
「僕の名前はシグナス=フリューゲル、白鳥座の力を持っている魔銃の使い手だよ。」
「私は、魔術師のアルテア=フリューゲルです。持っているのは、琴座の力・・・
 お兄様・・・またいつかお会いしましょう・・・」

そういい終わると、アルテアの姿は、完全になくなっていった。
そして、この世界自体も、だんだんとぼやけていく。
時間が来たのだということを示しているように。

「そうそう、ちなみに僕達は君から派生したわけだから、君が兄さんってことだから。
 僕の力を借りたくなったら、いつでも呼んでくれていいんだよ、兄さん。」
「は、はぁ・・・
 って、力を借りるなんてどうやって・・・」
「簡単なことさ、それは・・・」

シグナスの言葉を聞き終らないうちに、世界は崩壊した。
そして、意識は現実世界に、急激に引き戻される。
 
 
 

戻ったところは、抉れた地面の中・・・・
周りから見れば、きっと月とかにあるクレーターによく似ているんだろう。
「私は・・・こんなところにいたのか?」
確かに、もっと平らな地面のところにいたような・・・でも、記憶が定かではない。

ただ、はっきりすることは、
私には戦う力があり、
しかし今は何処か力が足りないということ・・・“もう一人の私”との別れが原因だろう。
見てみると、手甲に刻まれていた琴座の紋章も消えている。

しかし・・・
私は、何か重大な使命があったはず
しかし、それはなんなんだ。思い出せない。

ここまで来てから、いろいろなことがあったことは微かに分かる。
でも、そのすべてがはっきりしない。
何があった?私は何故ここにいる?
誰か私に、その答えを与えるものはいないのか・・・
そう辺りを見回すと、周りにはアンデッドの軍団がいるだけだった。

「・・・参りましたね。こういうタイミングで・・・」

やっぱり、こういうときは戦うしかないのだろう。
闘い方だけは、自然と身体が覚えている。
そして、負ける気のしない自信も、身体に自然と染み付いていた。
手には薔薇、そして【星】のタロットが握られている。

何かは分からないけど、無くしちゃマズイか、
とタロットを魔法空間に送る時に、ふと、何か懐かしい感じが頭の中をよぎる。
それがなんなのかは、分からない。
しかし、何故かこう感じることが出来た。
「負けられない・・・自分の護るべき者を、守り通せる力を求め続ける限り」、と
 

「しかし・・・魂半分でも死骸の相手をするには十分。
 さぁ、このアルタイル=フリューゲルを恐れぬならば、来るがいい!」
 
 

fin
 
 
 
 
 

・・・・・・・・・・・
あとがき

リレーの外伝です。
本編では出してない、アルタイル君の強い頃の話です。
正直、強かったのかどうか描写が微妙ですが、この頃のアルタイル君は魂分離前の約2.5倍は強かったと思ってください。

さて、シグナス君の設定は本編で出してませんね。
実際、出番があるのかどうかさえ危ういですが、出るときのために設定を書いてはおきます。
出番があるときには、使ってください。

それと、タロットカード。
この辺とかは本編で使っていきたいんですが・・・
これについては、アルタイル君に最も適しているものがたまたまあっただけなので、
皆さんに適合するものがあるかどうかは謎です(おぃ
まぁ、ネタとして使えるようにはしておいたってとこでしょうか・・・
まぁ、こんな感じ、と言う枠組みだけはあるのですがね。
 

最後に、すぺしゃるさんくす。
私の方で勝手にキャラを設定して、なおかつ使用の許可を下さったフレイアさん。
あなたがいなかったら、この小説は完成しませんでした(当たり前だ

と言うか、作っておいてボツ喰らったらどうする気だったんでしょうね?自分。
全く、もう少し伏線張る辺りで許可貰っとくべきでした、反省;

では、本編でまたお会いしましょう。