倒壊したビル、
焼けているマンション、
抉られているコンクリートの道路。
更に路上には沢山の氷柱―それだけはここ2週間の間に襲い掛かってきたアンデッドたちを倒すために自分でやったものだが―

間違いなく元いた世界と同じようだが・・・やはり現実離れしている。
周りに少し樹木が見える程度しか、元の世界の情景は感じられない。
第一、道端で襲われている時点でおかしいのだ。

「それにしても、こいつらが弱いやら私の力が強いのやら・・・仕方がありませんねぇ」

新手のアンデッドたち、およそその数30体弱。
さっきと同じくらいの数だ。何の躊躇いもなくそちらに向かって走っていく。
それらの間を駆け抜けるように通り過ぎていき、
いつ抜いたのかも分からなかった、シャドゥソードと名づけられた剣を鞘に収める。
それと同時に、アルタイルの通ってきた道は、凍りついた幾つのも柱が並んでいる不思議な通りと化した。
 
 
 
 
 

この世界で目覚め、もう5回太陽が昇っているがずっとこの様子だ・・・
ほとんどの建物は崩れているか無くなっているか。
たとえ崩れていない、比較的無事な建物があってもその中に人はいない。
仕方が無いので、半分倒壊しながら中は比較的無事で、人が誰もいないコンビニの中で食料を失敬する。
賞味期限が切れているものが多いのが難点だが、もつ物は案外とある。
まぁ、それでも飲み物とMARIEを無駄に確保できたのでよしとしよう
・・・しかし、こっちの世界にも同じようなモノは沢山ある、不思議なことだ。

少し歩くと、戦火を免れたように、まだひっそりと存在する市民公園で少し休憩することにする。
周りはもう悲惨な状態なのだが、ここだけは台風の目のように静かな情景を残している。

「(ここだけ見れば、平和なんだけどね・・・」

しかし、そんなに平和な空気が流れている場所ではない。
さっきから何回も撃退してきたこともあって、大体相手の意図が見えてきた。
つまり、自分を狙っていると言うこと。
今までの様子だとむやみに建物を破壊したりはしていない、しかも何かを探すように歩き回っている。
何故なのかは分からない、だが特殊な力を持つものと言うのはその存在が他より察知されやすいと言うことなのだろうか。
 

だが、今日は若干趣が異なっていた。
珍しく、見えてきたのはドラゴン・・・その数約10体。
しかもどうやら別の方で攻撃を開始しているようだった。
もしや、アルタイル以外に人がいるということなのだろうか?

とにかく何かの手がかりになるかもしれない、
そう考えると自分の目に集めている魔力―眼をはじめ、身体の各所を魔力で矯正している―を高め、
更に遠くを見られるようにする。
それと同時に背中に羽を出現させ、目的地まで飛んでいく。
約一週間の間に、魔術をいろいろな形に使用できるようになっていったアルタイルにとって、これくらいは容易い。
とはいえ、最初から眼や身体の魔力矯正は行われていたようだったが・・・
これがないとおそらく何も見えないだろうというくらい強い補整が掛かっているのだ。
また、羽は魔力消費が激しいために普段は歩きなのだ・・・その辺りはまだ修行の必要があるだろう。

そして、目的地まではそう遠くなく、ドラゴン達を仕留める射程範囲に入った。

「色々試してみた方がいい・・・・かな」

いつもは剣ばかり使っているので、今日は弓を使うことにする。
具現化されたのは、長弓。矢はない、魔力を矢の形にして打ち出すしかないだろう。
瞬時に、右手に二本の矢を作り出す。電気エネルギーを集約させて作った雷の矢。

動きながらなのでそう狙いをつける時間はない、下手すると見つかる恐れもあるからだ。
その中でも大まかに狙いを定め、呪文を唱えつつ二本を続けざまに発射する。

「“轟きの閃光”」

放たれた二本は、共に別の竜に命中し、込められた魔力によって当たった竜に雷攻撃を加える。
強烈な電撃に耐えられず、当たった二体は共に一撃で落下。恐らく生きてないだろう。

仲間がやられた事で、他の8体はこちらを確認し、向かってくる。
飛んで火にいる夏の虫、近づいてくる、何も考えていない奴ほど倒すのが容易な奴はいない。
落下させてこれ以上街を破壊するのも美しいとは言い難い・・・・ここはやはり木っ端微塵にするべきか・・・

瞬時に弓をしまい、左手に魔力を集中させる。
手甲は魔力を増強させる効果があり、そうすることで消費量を2/3程度(当社比)に抑えられるのだ。
無論、チャージ後すぐさま詠唱を開始する。竜たちが向かってくるまで目測で約12秒掛かるとすると・・・十分すぎる。

「“風刃の裁き”」

風が渦を巻き、ドラゴンたちを捕らえる。
それと同時に、渦の中に発生する無数の風の刃が次々と敵を引き裂く。
風に取り込まれ、切り刻まれ、
ミキサーにかけたかのように粉々になるドラゴンたち・・・・これなら確かに町への被害は少ない。
ただ、血飛沫は大量に飛ぶだろうから、傍から見れば宛ら血の雨が降っているようだろう。
誰も居ないだろうから、そう考える必要もないのだろうが。
 

そして、そこになってようやく当初の目的を思い出すと、先ほど始末したドラゴンたちが最初にいた地点に戻る。
近くには、矢の攻撃で落下させたドラゴンたちがいたが・・・もし人がいたとするならマズかったんじゃないだろうか。
急いでそこに向かうと、そこは“元”学校のようなところのようだ。
先ほどミキサーにかけた地点からは離れているので地しぶきが飛んだ様子はない。
矢によって墜落させたドラゴンが体育館を派手に壊しているが・・・元から壊れていたんだし、別に構うことではないだろう。

敷地内をよく見てみると、校庭に人影。
近づいてみれば、そこには一人の女性が倒れていた。
黒い髪を腰の辺りまで伸ばしており、手には大きめのスケッチブック。
少し離れた所には、彼女のものであろうショルダーバックが見つかった。
画家なんだろうか?
そうだとしても、こうも人が居ないところではじめた会った人間が画家と言うのは妙なものだが。
とりあえず気を失っているだけでたいした怪我もしていないようなのが幸いだった。
女性に万が一のことがあっては、騎士としての役目が務まらないだろう。

気絶しているらしいので遠慮なくまじまじと見てみると、
何処かで会った事があるような、懐かしい印象を受ける女性だ。
記憶力が悪いとはいえこんな人を見たら覚えていそうなものなのだが・・・思い出せない。
絵を描いている女性に知り合いはいるが、こんな人ではなかったような気がする。
・・・まさかこの年で呆けたか。ちょっと心配になってきた。

「ぅ〜ん・・・」
「・・おっと」

アルタイルが必死に記憶力と格闘していると、その間に女性は目を覚ましたようだ。
女性の顔を、しかも近くで覗き込んだままの体勢と言うのは流石に失礼だし、第一かなり怪しい。
慌てて立ち上がると、女性に手を差し伸べる。

「お怪我はなかったようで・・・何よりです」
「あ、はじめまして・・・助けて頂いたようで、どうもありがとうございますっ」
「いえいえ、これも騎士の務めというものですよ。立てますか?」

アルタイルの手を借り女性は立ち上がると、埃を払って自分のショルダーバッグを取りに向かった。
中身は絵を描くための道具が主なものだったが、どうやら全部無事なようだった。
そして、その荷物の中に見つけたもの・・・蒼玉、アルタイルの持っているものと同じものだ。
そうだとするなら、雰囲気がどこが誰かに似ているのも頷ける。
そう、私の知っている、あの人だというならば。

そう直感すると、彼女の傍で片膝をついて座リ、質問する。

「・・・失礼ですが、その蒼い玉はどこで?」
「えーっと、ここに来る前に現れたものなんです。
 私、実はここの世界の人じゃ無いんですよ・・・・って言っても信じてもらえないですよね」
「いや・・・そんなことはありませんよ、お嬢さん。」

そう言うと、右手から紅い薔薇を出現させる。
魔術の応用だが、手品に使えそうな、なんの役に立つのかわからないものだ。
それを、彼女の右手に握らせると、自分の予感していたことを話し出す。

「そう、私は貴女を、貴女は私を知っていますからね・・・・フレイアさん」
「もしかして・・・・石島さん?」
「そのもしかして・・・ですよ。まぁ、もっともこの姿ではわからないのも無理ありませんが・・・・」
「私もそうですよ、こっちではツバキって言うらしいです。
 苗字は・・・適当にミヤマでいいかな。」

近くにあったベンチに移動すると、お互い久々に人に会ったということもあり、いろいろなことを話した。
この世界に来てからの事、転移する前のこと、色々・・・
そして、固く誓い合った。
二人揃って、元の世界に必ず帰ると。
 

私のこの力が無くなるのは確かに惜しい。
でもこれは、私の思いが生み出した仮初の力に過ぎない・・・・
だから、元の世界で本当の力を掴み取りたい。
そう、アルタイルに劣らないような力をと自信が持てる人間になりたい
自分の思いを、本当の形に変える
何年掛かるかもわからないし、一生無理かもしれないだろう。
それでも歩き続けられる想いは既に持っている。
自分のために、そして今は誰なのかもわからない誰かの為に。
 
 

だから必ず帰る
何よりも自分自身の・・・私の中にある想いを、果たすために。
 
 

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