MFG的SS「虚空の蒼玉」
第73話<フシギダネ石島>

太陽が高く昇る。
もうすぐ昼食の時間なのだろう。

「・・・何故私は寝かされているんだ。全く酷いな。
 人が感動の余り少し気絶していただけだというのに・・・」

そう言うと、寝かされていた青年・・・アルタイルは上半身を起こす。
瞳には涙のあと。だが、左の目には陰りが見える。
ベッドから出、またベッドに腰を下ろすと、自分の力を感じ取る。

「ふむ、左眼分だけ他に回せば問題ないか。
 やはり転移魔術と空間制御魔術の分はシャドーが全部肩代わりしてくれたんだ」

シャドゥキャリバーの反応が感じられない・・・やはり完全に自分の元から離れたようだ。
剣が無くなった自分は弱い。
否、今までほとんどを剣に頼っていたからそう思うだけだ。
思いを届ける「心」の弓、自分の信念とそれの裏づけである「技」の槍、
そして、それらを貫き通し影を引き裂く「力」の剣。
それの一つが欠けただけ・・・それだけだが、全てに意味がある以上はやはり心配ではある。

・・・そういえば、と彼は思い出したように自分の魔術空間から物を取り出す。
なにやら色々入っていそうなショルダーバッグと、スケッチブック。
ツバキの荷物だ。
彼女が強制転移を受けたときに落としていったもので、それをアルタイルが持っていたのだ。
それらを見ると、あの日の出来事がつい先日のようにも思えてくる。
そしてそんなことを思い出すと、また胸が苦しくなる。

“世界”を作った心・・・この空間では間違いなく一番力を発揮できるはずの自分。
何に何故助けられなかった?
自分の心なのか、そんなことを望むのが。

「そんなことはあるはずも無い・・・」

言いながらも、心の中ではもしかしたら、と思うことが無い訳でもない。
そして、そのことがこの先で皆を苦しめるであろう存在を生み出してしまっていることは、否定できない真実だ。

ぐるぐると廻る思考の中。
結論が出ることは無く・・・そこに現れたのはツバキ。
昼食をもって来てくれたようだった。

「あ、私の荷物。預かっててくれたんですか。
 それより、お昼もってきましたから食べましょう。」
「私は別に大丈夫なんですが・・・」
「あんまり無理しないでくださいよ、余り魔力が見えませんけど
 左目が特に・・・もしかして見えてません?」

彼女が覗き込むように確認すると、やはり左眼には光が無い。
逃げるようにして視線を逸らす彼だが、参ったように呟く。

「・・・どうも私は隠し事が苦手らしいね。」
「今日寝ておけば明日には回復するんでしょうから、ちゃんとおとなしくしてたほうがいいですよ。」
「動けるのに、暇なんですがね」
「私が見張ってますからね。
 ついでに、荷物もあるから絵のモデルになってくれますか。」

参ったように再び上半身だけ起こしたような状態で、昼食を食べる。
自分が作るような雰囲気に似ていることから考えると、アルテアが作ったのだろう。

その後、彼は本当にずっと見張られる羽目になったのだが、
それは別の話である。

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