MFG的SS「虚空の蒼玉」
第70話<フシギダネ石島>

「時間が・・・もう無いか」

アルタイルの目の前で行われている光景が遠のいていく。
犠牲となるのは回避されたが、それでももう魔力はほとんど残っていないのだ。
ゆっくりと片膝をつくと、それでも前を見つめる。
この瞬間は、目に収めておかなければならないと。
周囲がかけてくれる声も、もう彼の耳には入っていない。
聴力補正用の魔力がつきあっけ手いると言うこともあったのだが。

「(貴女がどちらの選択をしても、私は構わない。
 だが・・・貴女は後悔しないでくれ」



蒼玉から聞こえてくる、声

『今の状態では、選択の余地がありません。
 リアスさんが危ない・・・私を、元の身体に。』
「そうね、でも元に戻すにはちょっと大変よね。」
「・・・俺が問題か?」

そう、クロウはタロットを持っていない。
アルタイルに以前【愚者】とは呼ばれたが・・・実際にその力を見たことはない。

「だが、愚者なら新しい可能性にかけてみるものだろ。
 リアス!お前は大丈夫だ」
「わかったよ・・・にーさん!」
「決まりかしらね。」

そう言うと、リアスの体からエネルギーが抜けていく。
皆が固唾をのんで見守る中、
少しづつ小さくまとまり・・・それが一定の大きさになったとき、
瞬間的に飛び、クロウを直撃する。

「ぐっ・・・」

自分の持っているエネルギーに、新たなものが加わる。
それはパワーが上がることを意味するが、当然それに付き従う代償は大きい。
しかし・・・向こうの世界での経験は、伊達ではない。
魔力矯正を行ったことによって、足りない分のエネルギーは、すぐさま取り込まれてゆく。
そして、それが完全に飲み込まれたとき、クロウが倒れこむ目の前に、
タロットカード・・・【愚者】が現れる。

「当たったな、確かにこのカード・・・」

それだけいうと、クロウの意識は遠のいた。


一方、コローネはその様子を見届けるまもなく、次の作業に取り掛かっていた。

「さて、次はこっち・・・だけど」
「すまないが、これは私がやらなくては。
 私の身体に宿っているのでね・・・」

膝を突いて立ち上がろうとする彼を、コローネは制する。
蒼玉を、目の前に出し。

「問題ないわ、ツバキの魂はこの中だから」
「・・・は?しかし私は現にこうして自ら魔力リミッターをかけて・・・」
「ごめんなさい・・・・それ、私がやったのよね。」

アルタイルは、一気に崩れ落ちた。
今まで自分がやってきたことは、一体なんだったのだろうか・・・
一人で悲しいことをやっていたようにしか思えない。
哀れだった。

「そんな馬鹿な・・・私の苦労は一体」
「・・・そんなに落ち込まなくてもいいのに。
 それより、彼女の魂を元に戻すけど、安定するようにちゃんと手伝ってよね。」

彼の返事を待たず、魂はゆっくりと身体に戻ろうとしていた。
なんと言うか、クロウの時とは戻り方が違う気がするが、
それは誰も突っ込まないでいた。

そして全ての魂が元に戻った時・・・リアスの身体を形作っていた魔力は開放され、
彼女の、ツバキ=ミヤマの身体に戻る。

魔力が完全に散ると同時、彼女の瞳が、ゆっくりと開けられる。
その眼に最初に映ったのは・・・薔薇だった。
直後、身体にいきなり、誰かが倒れこんでくる。

それが誰かは、もう最初に目に入ったもので確認がついたのだが。

「あれ、ってアルタイルさんですか?
 ただいまです、やっと戻れました」
「・・・おかえりなさい、ツバキさん」
「あのー、ちょっと重いんですが;」
「すみません、魔力が足りないので・・・足が」

そのまま、彼はその立った状態で力を失う。
彼の瞳には、一滴の涙が浮かんでいる・・・

アルタイルが本当に魔力矯正分が尽きて動けなかったのか、
それとも涙を悟られたくなかっただけなのか。
他に理由があったのかについては、誰も知るところではなかったのだが。


そんなこんなで、一向はにぎやかな昼食が迎えられそうであった。


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