MFG的SS「虚空の蒼玉」
第63話<ぱうだぁ>
“クロウズゲート”という魔法はもともと、相手のスキルを封じるための高度な闇魔法である。 それを特定の精神のみを対象とした場合、受け手の身体は絶えきれずに深い眠りへと陥る。 その眠りの中に、ジェイルはいる。 一面の闇。 ジェイルの意識が戻り始めたとき、彼が最初に見たのは闇であった。 「・・れ!?コローネの奴、かける魔法間違えたか?」 いつもならば、最初に見るのは無機質な天井か空である。 何も見えない、そして重量感のない空間に戸惑いを隠せない。 「・・ヨウ・・オハヨウサン」 ふいに、不気味な不協和音のような声が凛と響いた。 「誰だっ!?」 ジェイルはすぐさま飛び起き、闇の中に目をこらす。 そこにいたのは、黄金色の瞳のライカンスロープ・・・ 闇の中、自分と相手の姿だけははっきりと見えた。 「面ト向カッテ会ウノハ初メテダッタナ、人間ノ俺様ヨ」 「・・お前は・・」 獣の瞳が笑った。 ニヤリと笑った口元に、鋭い牙が見え隠れする。 「ソウダ、オマエハ俺ダ。 モットモ俺ハ 魔法ナンザ使エネェガナ」 2人はしばし沈黙した。ここは、ジェイルの精神の中そのものだったのだ。 周りが闇に包まれているのは、コローネの魔法が未だ効果を及ぼしているせいだろう。 無言の人間と笑う獣。静寂を切ったのは、獣だった。 「サテ・・オ前ハコノ姿ヲ嫌ウラシイナ。俺ガ嫌イカ?」 「見たくもないね。夜のことはよく覚えちゃいないが、おまえを見て改めてそう思う」 「ダガ、オ前ハ本来、力ヲウマクコントロールシテ、臨機応変ニ能力ヲ 使イ分ケル必要ガアル・・ソレハ知ッテイルナ?」 「・・・・・・・」 ジェイルの役職は、魔道士。 その中でこれだけの体術を扱えるのは、正直この獣の力といっても過言ではない。 しかし所詮は人間、魔法も素手も効かぬ相手には手も足も出ない。 何度か獣の自分を求めた。が、幾度となく失敗しては精神を乗っ取られ、ライカンスロープとしての力を暴走させてしまった。 苦渋の過去が、おぼろげに脳裏に浮かぶ。 「ソコデ、ダ。ドウシテモ俺ヲオ前ノ一部ニシタイトイウノナラバ コイツヲウマク使ウコトダ」 そう言って、空間に1枚のカードが現われる。 それは絵柄の反転した死神のタロットカードだった。 「タロット・・・だと?この紙切れで何が出来るんだ?」 「タダノ紙キレデハナイ。“星ノ民”ハ、皆ソレヲモツ。 自ラノ表裏ヲ、認識スル鍵。見テイロ・・モウスグ絵ガ変ワル」 獣の姿が、薄く揺らいでくる。 そしてタロットの絵柄は一瞬消え、正位置の『死神』が現われた。 「タロット、ねぇ・・・・」 気が付いたときには獣の姿はなく、一瞬の間をおいて、闇が晴れた。 そこにあったのは、月明りに照らされた薄暗い天井だった。 |