MFG的SS「虚空の蒼玉」
第58話<悪ポケェ>

「た・・・大変だ!みんな!!」
アルカースはようやく皆の元へ帰ってきた。上体がフッと下へ落ちる。
「ど・・・どうしたんだ、おい!」
ソウが駆け寄り、体を支える。非常事態が起こったのかと皆も駆け寄った。
「ジェイルさんが・・・ジェイルさんが・・・・・・。」
それ以上言葉は続かなかった。しかし、ジェイルがどんな状態なのか、それを感じ取ることができた。
「ついさっき、リアスさんがここを離れてあなたとジェイルさんの様子を見に行ったのです。」
アルテアが言う。
「リアスさんが・・?危ない!彼女を止めなきゃだめだ!!」
アルカースはもはや自分自身を見失い、興奮していた。
「アルカース、とりあえずお前はここで休め。
この状況からだと精神が不安定だ。下手すれば重い病にかかる。」
ムクラが気を使うようにしてアルカースを落ち着かせた。
「・・・とにかくリアスさんが危ないんだ!」
「いいから休め・・・!!これを使って眠ればまず精神が安定する。
俺達はジェイルとリアスの様子を見に行くから安心してろ。」
ムクラが薬を取り出した。ほぼ強制的に薬を飲まされた。アルカースの意識は深淵へと落ちていった。
ムクラやアルテア達はリアスの後を追っていった。
宿には眠りについたアルカースのみが残された。
 

・・・アルカースは何もないところにいた。ホントに何もないところ。『夢の中』だった。
しかも眼鏡をかけていて紺のブレザー姿の男に・・・つまり元の姿になっていた。
まわりはホントに何もない。ただあるといえば、そこには一人の女のような人が立っているだけだった。
目つきは鋭く、黒い長髪でアルカースの服をしている。アルカースは確信した。

この人は、コローネさんだ。

コローネがブツブツと呟いている。
「なんか大変なことになったわね。ホントあいつは自分を抑えられない馬鹿なんだから・・・。」
何を呟いているのかは分からないが、少なくとも今の事だというのは分かった。
アルカースはコローネに近づき、声をかけた。
「あ、あの・・・コローネさんですよね?」
コローネは振り向き、普通そうな顔で冷静に答えた。
「ああ、あたしが闇の烏女(からすめ)コローネ。それがどうしたの、アルカース君。」
アルカースは驚いた。自分の名前を知っている(仮名だが)
「あの・・・何故僕の名前を。それに、一体何故あなたと会えたのですか?」
「タロットよ。これでこの世界を覗いたの。」
アルカースは変だと思った。アルカースにはタロットを持っていない。
心当たりといえばコローネの姿になったとき、偶然泥に汚れていて何が何なのか分からない紙切れを拾ったくらいだ。
「でも、僕はそんなきっかけを作るカードなんてもってないし・・・。
あったとしてもただの紙切れですよ?」
「その紙切れ、内ポケットにしまったでしょ?それのこと。」
アルカースはまさかと思ったが、コローネはローブの内ポケットからカードを取り出した。
すると、そこには正位置の『隠者』のタロットカードがあった。
さっきまで泥でホントに何もわからなかった紙切れが、くっきりと姿をあらわしている。
これをつかってコローネは様子を見ていたのだ。
「『THE HERMIT』。意味は孤独、探求、知恵・・・。なぜこんなものが・・。」
アルカースが呟いた。
「なぜだか・・・。とりあえずこれを拾ってくれたから私もどう言う状況かわかったわ。
それに、夢になるとあなたの習得物が私にきたし・・・。」
アルカースは全く訳がわからなくなってしまった。

「とにかく宝玉もある、今がこの状況。そして今は孤独で、どうやれば仲間を助けられるか知恵を振り絞る。
これで体を入れ換えるきっかけができる。そこでどう?契約しない?」
一気にコローネが話を進めた。
「契約・・・何の契約ですか?」

「あたしの体をあたしが使うことよ。つまり、出番交代。」
「それって・・・僕はどうなるんですか。」
アルカースは疑問に抱いた。もし、コローネが体を取り戻すと・・・。
 

「あんたには悪いけど・・・当分の間ここで眠ってもらうわ。」

アルカースにとって、大きな決断だった。
 
 

一方リアスは、雄叫びが聞こえる元へと向かっていた。
「殺す・・・・あの忌々しいライカンスロープ・・・。殺す・・・・・。」
そしてリアスは野獣と化したジェイルの姿をとらえた。
野獣はリアスの姿を確認し、その黄金色の瞳で睨みつける。
リアスも野獣に恨みでもあるのか怯まずに睨み返した。
 

「ガアアァァアア!!!」
野獣が飛びかかった。
 

 

→Next