MFG的SS「虚空の蒼玉」
第50話<ぱうだぁ>

午後も、引き続き魔法の練習をしていた。
午前中と違うのは・・ジェイルが何もせず様子を見ているだけということか。
呆けたように空を眺めているジェイルの元に、小さなーー午前よりは大きめのーー火の玉がひとつ飛んでくる。
「・・いきなり何しやがる!」
「大分慣れてきたところで、宣戦布告や!
 魔法使えんことはないんやろ?」
氷と炎、自分に分があると見込んだ挑戦だった。
それを聞いたジェイルはしれっとした眼差しをベルギスに返す。
「使えなくはない。ってか、そんなつまらんことで魔力つかうなよ・・」
「使えるんやな。よしきた」
すぐに、ベルギスは詠唱を開始する。
短い詠唱の後、掲げた手の上に現われる巨大な火の玉。
先程の奇襲は、あれでも手加減したのだろう。
「“ラージ・ファイヤー”や!!」
火の玉は手を離れ、早くないスピードでジェイルの方向へ飛ぶ。
「・・・あーあ、めんどくせー奴;」

ようやく立ち上がったジェイルは、詠唱とともに両手を合わせ、不思議な『組み手』を作る。
詠唱は長い。そして、周りにいる誰もがはっきりと感じ取れる、確かな魔力の流れが空気を満たす。
目に見えない強大な圧力に、誰もが1歩を引かざるを得ない。
「“プライゾン・ロック”!!」

バキン!!

と大きな音の後、氷の塊が地上に落ちる。
その塊を見たベルギスは目を丸くする。
「ど、どうなってるんや・・・!?
 『氷の中で炎が燃えとる』!?」
その通り、炎の周りを強固な氷の壁が覆っているのである。
中で燃える炎は次第に小さくなり、やがて消えた。
「ということで。無駄な魔力の消費はやめておけ。
 その低温の炎では、この氷は溶けない」
「うぐぅ・・・」
ジェイルは解除の呪文を唱え、氷の塊を消す。
魔法を覚えたてだったシェインとは桁外れの術士である。

「・・ベルギス、と言ったか・・よく、“もう一つの自分”を封印できたものだ・・」
ふと、ジェイルは呟いた。
深い色の瞳はどこか寂しげに・・
「・・それはけなしてるんか?;」
「いや、羨ましいと思う。
 俺は“自分の中の自分”を、制御しきれずにいるからな」
ポケットの中から、ジェイルは2枚のタロットカードを取り出した。
1枚は、不吉な「死神」のカード。
そしてもう1枚は、奇妙なことに絵柄だけが逆さまになった「女教皇」だ。
「お前の裏か?シェインじゃないんか?」
もっともな質問だった。が、ジェイルはそれを否定した。
「おそらく、そいつとは関係ない」
 

「(夜が来る・・夜が来れば、どうしても血が騒ぐ・・)」
傾きつつある太陽を見上げて、また何もしない時間を過ごすのであった。

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