「おやすみ」
「おやすみなさい」
「zzz…」
「では よい夢を…」
それぞれ 各自部屋に分かれて眠りにつく。
クロウも 寝ようとしてベッドを見る。
「………」
すでに少女が占領していた。
「…リアスに取られたか…って何でここで寝てるのだか」
落ち着きながら見守ろうとした自分に気がつき苦笑する。
昔はこんなではなかった筈なのに と。
そして リアスと出会い 武装錬金を手にしたころを思い出す。

今夜は長くなりそうだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

木造の四角い部屋。
扉は一箇所だけ。
窓は・・・無い。
そして 自分の知らない眠っている少女。

気が付くとそこに居た。
記憶を呼び起こしてみる。

MFG。

ハンドルネーム。

チャット。

蒼い謎の玉。

消え行く知り合い。

そして…記憶が途切れていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「クロウ!剣の持ち方が違うって言ってるじゃない」
赤い髪の女剣士“アリス”が 俺の手の剣を握りなおさせる。
その様子をアーチャー“シルバー”と翼人“翡翠”が そっと見守る。

「そのまま一気に振り下ろす!」
その横では 俺の妹を名乗るリアスがレディアムから
死鎌の使い方を 教わっている。
それをやはり 俺たちを見つけた張本人“ディファン”が見守っている。

これがずっと続くと思っていた。
だが 永遠はやはり 存在しなかった…。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ここまでなんて…」
「貴方たちは逃げなさいっ」
この世界に来てから1年がたっていた。
武器を俺とリアスに預け その上で二人を逃がそうとしていた。
それほどにまで追い詰められていた。
「その武器を元に錬金石を作れば俺たちは死なない!」
「例え肉体が滅びようともな!」
「だから…行くのよ。そして生き残りなさいっ」
彼らの声が必死だった。だからそれに答えなければならない。
リアスの手を引き 走り続けた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「…出来た。後は最後の仕上げ…」
「にーさん…あまり無理しないでよ?」
逃亡してから2ヶ月が過ぎていた。
約束を守るため 錬金術の村へ来てから必死で錬金式を覚えた。
そして今 目の前に複数の錬金石が完成していた。
練成作業中に蒼玉は紅玉へと変質していった。
だが それらはすべて些細なこと。

最後の仕上げ『名彫り』に作業は入っていく…。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「にーさん。本当に行くの?」
「…行くしかないさ。記憶が確かなら仲間は必ず居る」
アリスたちと別れて1年。この世界に着てから2年がたっていた。
「止めても…無駄…だよね。にーさんのことだから」
「錬金石が導いてくれる。そして蒼き星たちが」
空では無数の星たちが輝き 見守っていた。
「「蒼き星の加護あらん事を 我ら互いに導かれし事を 今ここに願う」」
リアスと声を合わせ 誓いの言霊を読む。
俺が紅玉を リアスが蒼玉を頭上に掲げる。
「紅玉よ…我が名の下に汝が力を解放する!」
「蒼玉よ…私の名に寄りて汝が力を解放する!」
息を呑みこみ 改めて声を重ね合わせる。
「「開け異界への門!“ウィザードドリーム”!」」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

…長い夢を見ていた気がする。
懐かしく そして辛い夢。
遠くで声がする。
「クロウにーさん!」
「クロウさん。行きますよ」
「zzz」
「早く起きてくださいよ」
そして俺はゆっくりと目を開ける。
今は 仲間が居て 妹が居る。守りたい世界がある。
だから まだ死ねない。元の世界へ帰るためにも。
手元の錬金石に宿りし意思の思いをかなえるためにも。
「…あぁ。行こうか」
顔を上げ 歩き出す。光の中の仲間たちのもとへと。